「借金返済」サンファイン社の退職金事件

国鉄
不当
労働

主 文

1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告Aに対し,360万7783円,原告Bに対し,266万3147円,原告Cに対し,238万9368円,原告Dに対し,230万2274円,原告Eに対し,783万0014円,原告Fに対し,567万9320円,原告Gに対し,606万1410円,原告Hに対し,484万5678円,原告Iに対し,943万8515円,原告Jに対し,800万3184円,及びこれらに対するそれぞれ平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1本件は,被告の関係会社に勤務していた原告らが,同会社を退職したことによる退職金について,法人格否認の法理及び重畳的債務引受けにより,被告にも支払義務があるとして,被告に対し,退職金及び弁済期経過後の遅延損害金の支払を求めるものである。
2争いのない事実
(1)被告は,昭和22年10月2日に設立された会社であり(設立時の商号は林紡織株式会社),各種繊維製品等の製造及び販売等を目的としている。
被告は,昭和54年4月5日,会社更生手続開始決定を受け,平成8年1月25日,会社更生手続を終結させた。
被告は,会社更生手続中の昭和56年3月10日,現商号に変更した。
(2)被告に関係した会社として,以下のとおりの会社があり,それらの多くは,被告の部門を分社化したものである。
ア昭和31年8月1日,株式会社ハヤシボーホケンセンターが設立され,後に林レイヨン紡績株式会社,さらに林紡績株式会社に商号変更された。
イ昭和32年1月30日,株式会社江南物産が設立され,後に株式会社コーナン・カウンセリング・システムズに商号変更された。
ウ昭和36年6月9日,林化成株式会社が設立され,後に株式会社ハヤシボー・ファブリック,さらに株式会社サンファブリックに商号変更された。
エ昭和38年2月1日,林編織株式会社が設立され,後に株式会社ルボア,さらに林編織株式会社に商号変更され,同社は,昭和60年7月15日に解散し,同年10月14日に清算を結了した。
オ 昭和46年10月6日,サンファイン株式会社が設立され,後に株式会社フソー,さらに株式会社フソー技研に商号変更された。
カ昭和53年3月1日,株式会社ハヤシボーセンイが設立され,後に株式会社サンファインテキスタイル(以下「サンファインテキスタイル」という。)に商号変更され,同社は,平成12年3月31日に解散し,同年8月29日に清算を結了した。
キ昭和53年3月13日,株式会社ハチマンが設立され,後にサンファインウール株式会社に商号変更された。
ク昭和53年4月1日,株式会社ハヤシボーセーセンが設立され,後に株式会社サンセンコー,さらに株式会社サン・センコーに商号変更され,同社は,平成13年1月5日に破産宣告を受けた。
ケ昭和53年4月1日,株式会社新紡毛が設立され,後に株式会社サン紡毛に商号変更され,同社は,平成11年6月30日に解散し,同年12月18日に清算を結了した。
コ昭和53年5月1日,株式会社イーエス興業が設立された。
サ昭和53年11月10日,株式会社ハヤシボー企業が設立され,後に株式会社サンライズに商号変更された。
シ昭和55年3月15日,株式会社中部ホケンセンターが設立された。
(3)原告らは,いずれも昭和45年10月以前に,被告(当時の商号は林紡績株式会社)に採用され,昭和53年3月1日に被告より分離,設立された株式会社ハヤシボーセンイ(後のサンファインテキスタイル)に転籍し,以後同社に10年以上勤続して退職したものである。
サンファインテキスタイルは,当初は被告の100パーセント出資の子会社であり,被告(当時の商号は林紡績株式会社)の編織部門が分社化されたものであって,被告の代表取締役のKが平成3年からサンファインテキスタイルの代表取締役の一人であった。
被告の編織部門は被告の扶桑工場で操業されていたものであり,昭和53年の分社化の前後を通じて,原告らの就業場所(ただし,平成9年9月に扶桑から一宮に移転),就業内容その他労働実態は全く変わらなかった。
(4)被告には退職金規定があり,同規定に基づく退職一時金制度があったが,被告に関係した会社(昭和43年時点では林化成株式会社,林レイヨン紡績株式会社,林編織株式会社の3社,昭和57年時点では株式会社サンファブリック,サンファインテキスタイル,株式会社サンファイン化学,株式会社サンセンコー,株式会社サン紡毛,株式会社イーエス興業,株式会社サンライズ,株式会社中部ホケンセンターの8社,平成10年時点では株式会社サンセンコー,株式会社イーエス興業,株式会社サンファブリック,サンファインテキスタイル,株式会社サン紡毛の5社。
以下「被告関係会社」という。)もこれを自社の退職金規定として援用していた。
そして,被告関係会社全体の労働者を組織するゼンセン同盟サンファイン労働組合と被告及び被告関
係会社連名の労働協約に基づき改定していた。
被告及び被告関係会社は,退職金規定に基づく退職金の支払を確実にし,かつ法人税法上の優遇措置を受けるため,昭和43年に適格退職年金制度を設け,退職年金規約を定めた。
適格退職年金制度は,法人税法に基づく制度であり,被告及び被告関係会社にとっては退職金支払の負担を平準化し,かつ税制上優遇措置を受けることができ,労働者にとっては退職金原資を社外に積み立てさせることで支払の確実性が増すというメリットがある。
被告及び被告関係会社の退職金規定15条には「別に定める退職年金規約により支給を受ける者については,年金の支給を受ける者は年金原価額,一時金の支給を受ける者はその額を控除して支給する」旨の規定があり,適格退職年金制度は,退職金規定と一体となって就業規則の一部をなし,労働契約の内容となるものである。
被告及び被告関係会社の退職年金規約15条は,受給者は年金に代えて従来どおりの一時金で退職金の支給を受けることもできるとし,退職一時金の選択は,退職時だけでなく,年金を選択しその受給を開始した後にすることもでき,その場合は,残余期間に見合う年金現価率により一時金が算定されるとしている。
退職年金給付の財源に充てるための費用は全額被告及び被告関係会社が拠出すること,被告及び被告関係会社は,加入者の加入の月から退職等の月まで,年金数理に基づいて算定された一定額を毎月拠出することとされており,加入者の退職前に必要な財源を全額積み立てておくことになっていた。
しかし,被告及び被告関係会社は加入者の勤続年数(被告及び被告関係会社間で転籍した者は勤続年数を通算することとされている。)に応じて退職年金を支給することにしているから,年金制度発足当時既に在籍している加入者については,制度発足前の勤務期間の通算により発生する給付債務の積立不足(以下「先発過去勤務債務」という。)が生じ,また,制度発足後の制度変更,財政再計算によっても給付債務の積立不足(以下「後発過去勤務債務」と
いう。)が生じ,後発過去勤務債務は,特定の労働者が退職し退職年金を受給している期間中にも発生する。
被告及び被告関係会社は,この先発過去勤務債務及び後発過去勤務債務を所定の方法で償却・拠出しなければならない。
(5)被告及び被告関係会社(昭和43年当時の林化成株式会社,林レイヨン紡績株式会社,林編織株式会社の3社)は,昭和43年12月31日,株式会社大和銀行(以下「大和銀行」という。)及び中央信託銀行株式会社との間で,年金信託契約を締結し,被告及び被告関係会社が拠出した共同の年金基金の管理,運用及び退職年金の給付事務を共同委託した。
その後,受託者は大和銀行のみとなった。
被告と被告関係会社は,退職金規定,退職年金規約上,相互に勤続年数を通算することとし,共通の退職金規定,退職年金規約,年金信託契約により,大和銀行によって,被告及び被告関係会社の労働者全員の年金基金を共同で管理・運用し,退職金給付を管理・支給していた。
(6)サンファインテキスタイルは,平成12年3月31日に解散し,同年8月29日に清算を結了したが,その清算に際し退職年金会計の清算は行われなかった。
被告及び被告関係会社には,毎年8月ころ,大和銀行から年金財政決算報告がなされているところ,サンファインテキスタイルの場合,清算中になされた平成11年の決算報告に同社の責任準備金が6257万9591円あるとされていた。
原告らは,いずれも退職年金規約に基づき退職年金の支給を受けていたところ,大和銀行は,原告らに対し,「共同委託者のご事情により,年金受給者の皆様に対する年金支払の原資が大幅に不足する事態にな」ったとして,年金支払を停止する旨通知し,平成13年3月から支払を停止した。
同年8月になされた最新の決算報告によると,責任準備金の総額は4億3802万3033円,被告の責任準備金は3億2274万3572円とされていたが,被告が同年1月以降拠出を停止し,大和銀行は同年3月から原告らへの年金支給を停止したものである。
3争点
本件の争点は,1被告は原告らに対する退職金支払義務を負うか,2原告らが被告に請求し得る退職金の額は幾らか,というものである。
(1) 争点1(被告は原告らに対する退職金支払義務を負うか)についてア原告らの主張
(ア)法人格否認の法理について
a対内的な一体性
被告及び被告関係会社は,対内的には連邦政府,共和国などと呼称し,強固な一体性を持つ企業集団を形成していた。
サンファインテキスタイルは,被告及び被告関係会社からなるサン・ファイングループの一つとして,「わたし達のなかま」(甲20)において「ねばならない主体性サンファインテキスタイル共和国」と称され,「ねばならない連邦政府」と称される被告本体の下に置かれる形になっている。
「ねばならない連邦政府」には総務部・工務部・秘書室,管理部・経理部,労務部・生活部・人材育成部があるが,サンファインテキスタイルには,それらの部署はない。
正にサンファインテキスタイルは,被告本体と一体でなくしては,機能し得ない会社であった。
なお,サンファインテキスタイルの従業員の「入社月」は,サンファインテキスタイル(旧商号株式会社ハヤシボーセンイ)が被告から分社設立した以前に被告に勤務していた者らに関しては,被告に入社した年月が記載されている。
このことも,内部的一体性を物語っている。
b資本
被告も認めているとおり,サンファインテキスタイルは,当初は被告の100パーセント出資子会社であった。
その後も,サン・ファイングループ内の持株会社的な位置づけの株式会社サンライズに分散していたのであって,グループの中心企業である被告の強い支配下にあったことに変わりはなかった。
c業務
もともと,サンファインテキスタイルは,被告の扶桑工場にあった編織部門(編織工場)が分社化されたものにすぎず,原告らの就労場所その他労働内容は全く変わらなかった。
分社化により,被告の織布部隊とニット部隊にいた従業員が,株式会社ハヤシボーセンイ(後のサンファインテキスタイル)に全員自動的に移籍になり,明確な個別同意もとられていなかった。
食堂,社宅,寮などについても被告とサンファインテキスタイルとで分けられることもなく,双方の社員が同じものを使っている状態であった。
各施設の修理等についても,サンファインテキスタイルが使用しているものに関しても被告が取り扱うことになっていた。
分社化に際して,サンファインテキスタイルの経営に必要な工場,機械設備は,サンファインテキスタイルが被告から購入し所有権を取得したが,取得代金は被告から貸し与えられ,「その中からその代金を振り替えて」払う方式がとられたものである。
これにより,工場そのものを賃借しているわけではないが,被告による強い支配力が及ぶ関係であることは明らかである。
もともと被告の一部門であったことから,サンファインテキスタイルの製造する製品の原料たる毛糸は,分社後も専ら被告から仕入れていたのは当然である。
また,後にサンファインテキスタイルは扶桑工場から一宮の株式会社サンセンコーの工場内に移転したが,これもサンファインテキスタイルの事情によるものではなく,被告が江南工場を移転し,紡績部門を扶桑工場に集約させた結果,押し出される形になったものである。
d人事(役員・主要幹部等の兼任等)
サンファインテキスタイル解散時の代表取締役には,被告と同じKが就任していた。
Kは,被告の代表取締役,株式会社コーナン・カウンセリング・システムズの取締役,株式会社サンファブリックの代表取締役,株式会社フソー技研の取締役,サンファインテキスタイルの代表取締役,株式会社サン・センコーの取締役,株式会社サン紡毛の代表取締役,サンファインウール株式会社の取締役,株式会社イーエス興業の代表取締役,株式会社サンライズの取締役,株式会社中部ホケンセンターの代表取締役を歴任,兼任している。
その他,サンファインテキスタイルの歴代の取締役も,被告及び被告関係会社から派遣された者がほとんどであった。
Lはサンファインテキスタイルの取締役に就任したが,その後被告関係会社である株式会社サンファブリックの取締役と兼任となった。
Mもサンファインテキスタイルの取締役であったが,その後株式会社サンファブリックの取締役も兼任した。
役員以外の従業員についても,例えばNはサンファインテキスタイルの準備工程の仕事をしていたが,被告の要請により被告に移籍した。
また,Oは,サンファインテキスタイルから,被告の要請により,被告関係会社の株式会社サンライズに移籍している。
そればかりか,Oは,現在被告の取締役に就任している。
結局,被告の代表取締役であるKが,必要な人材を送り込む,あるいは引き揚げるということを最終的に決めていたのである。
正に被告がサンファインテキスタイルの人事については完全に支配していたのである。
e会社の意思決定における一体性
人事・賃金の管理その他会社の重要な意思決定は被告の管理部門で行われており,その管理部門を被告は「連邦政府」と呼んでいた。
被告及び被告関係会社には,申請制度というものが存在していた。
そもそも,この申請規程(甲24)自体,サンファインテキスタイル独自で作成したものではなく,被告関係会社で共通して使用されていたものである。
この申請規程により,非常に多岐にわたる項目に関して,すなわち経営方針,経営計画・組織機構,業務計画,役員・従業員の人事,経理等々,みな座長である被告代表取締役Kの決裁を受けることになっていた。
実際に,重要なことはすべて被告の経理部管理課へ申請を出し,提出された申請書は,Kの決裁を補助するため,被告役員も決裁に加わり,あるいは目を通していた。
従業員としても,サンファインテキスタイルにおいては,本社すなわち被告の管理部で承認を得ないと物事が動いていかないと認識していた。
物事はすべて被告への申請とその決裁で決められるから,サンファインテキスタイルにおいては,取締役会ですら持ち回り決議で行われ,実質的な討議はなかった。株主総会でさえ,書類上だけのことであった。
サンファインテキスタイルの「収拾」,すなわち解散という会社存亡の重要事項についてさえ,「申請書」(甲25の2)により被告代表者及び役員が決裁をして最終的に可否を決している。
もちろん,前同様,サンファインテキスタイルの取締役会の実質的審議もなく,株主総会さえ開かれなかった。
また,同「申請書」には,「サンファインP専務(社長代行)より取締役Qに拝命がありました」とあり,解散のための業務の担当に関しても,被告の専務取締役Pが,サンファインテキスタイル代表取締役常務Mを排して,平取締役であるQに指示していたことが分かる。
さらに,業績悪化の原因となった,経営不振のグループ企業株式会社サンファブリックを救済するためのサンファインテキスタイルによる赤字引受けも,サンファインテキスタイルの取締役会で討議されることなく,Q取締役はつんぼ桟敷に置かれていた。
f就業規則,退職年金制度
被告及び被告関係会社は同一の退職金規定・退職年金規約を持ち,大和銀行に対する共同委託により退職年金を管理していた。
就業規則も同様であり,わずかに,定時制高校の通学者を雇用する被告の就業規則に20条ただし書きが付加されていることを除けば完全に同文であった。
gまとめ
以上検討してきた結果,本件においては,被告は,その業務,人事,経営に至るまで実質的には完全にサンファインテキスタイルを支配しており,同社が形式的に別個の法人であるということをもって退職金支払を免れるのは,正義・衡平の観点に照らし,許されない。
法人格否認の法理により,サンファインテキスタイルの法人格は否認され,原告らと被告との労働契約関係があったものとして取り扱われるべきであり,あるいは少なくとも退職金支払の法律関係においては法人格は否認されるべきであり,被告に対する退職金請求権が認められるべきである。
(イ)重畳的債務引受けについて
a退職年金規約及び年金信託契約の法的性質
被告及び被告関係会社は共通の退職金規定(甲14の1)を定め,その15条に基づいて共通の退職年金規約(甲15)を定め,その21条に基づいて大和銀行と年金信託契約(甲16)を締結し,適格退職年金の管理・運用を共同委託していた。
この退職年金規約は退職金規定と一体となって就業規則の一部をなし,労働契約の内容となるものである。
また,大和銀行との年金信託契約は労働契約の内容たる退職金支払義務を対価関係とする第三者のためにする契約である。
b年金基金の一体管理
拠出された原資は,被告及び被告関係会社の共同の年金基金として,その管理,運用及び給付事務が大和銀行に委託される(甲15の21条)。
したがって,大和銀行との年金信託契約においても,共同委託に係る受益者は被告及び被告関係会社の受給権者全員であること(甲16の3条),受託者大和銀行は共同の年金基金から受益者全員に支払うことが定められている(同8条)。
被告及び被告関係会社が拠出した原資は区分して管理され支払われるのではない。
また,被告及び被告関係会社の各社において退職者が出る比率は時期により一定ではないから,一体管理された年金基金からの退職年金の支払,すなわち共同の年金基金を費消する比率にもアンバランスを生じることは当然あり得るし,後に述べるように現実にも大きなアンバランスがあった。
そもそも,退職年金の給付月額は,勤続期間に応じ,退職時又は旧定年時の基準給与に退職年金規約の別表1に定める給付率を乗じた額とされ(甲15の13条2項),被告及び被告関係会社間での人事異動があることを前提として,勤続期間は,被告及び被告関係会社の勤続期間を通算することとされていたから(同31条2項),たまたま退職時に所属する会社ごとに自社従業員の年金基金の費消の比率をうんぬんすること自体余り意味がないとさえいえる。
c年金基金拠出の連帯責任
被告及び被告関係会社は年金基金の管理・運用を大和銀行に共同委託し,被告及び被告関係会社の従業員全員の年金基金は一体として管理されるから,被告及び被告関係会社中のいずれかが拠出を怠った場合,怠っていない他の会社も含め全体としての年金基金の健全性が失われる。
したがって,共同委託者(被告及び被告関係会社)が拠出について連帯責任を負うことは,共同委託・一体管理型の年金制度上当然のことである。
退職年金規約(甲15)1条が「この規約は,サン・ファイン株式会社およびその関係会社(以下各々「会社」という。)の従業員で退職した者またはその遺族に対し年金または一時金の給付を行い,退職後の生活の安定を図ることを目的とする。」と定め,同18条1項が「会社は本制度による給付の財源にあてるための費用を全額拠出する。」と定め,被告及び被告関係会社が,自社従業員のみならず,被告及び被告関係会社従業員で退職した者全員又はその遺族に対しても年金等の給付を行うことを目的としているのも当然のことである。
また,共同委託者が拠出金の拠出を怠った場合は,他の共同委託者が当該拠出金及び延滞金を支払うこととされているのも当然のことである(甲16の24条)。
前述のとおり,被告及び被告関係会社間で退職年金の支払にアンバランスが生じても不公平にならないのは,この連帯責任により,最終的には被告及び被告関係会社全員の退職年金の支払が担保されることになっているからである。
そして,退職年金規約は退職金規定と一体となって就業規則の一部をなし,労働契約の内容となっており,大和銀行との年金信託契約は労働契約の内容たる退職金支払義務を対価関係とする第三者のためにする契約であることから,共同委託者の年金基金拠出の連帯責任は,対大和銀行だけでなく,共同委託者の全従業員,すなわち原告らに対しても直接負うものである。
d被告の退職金支払義務
仮にサンファインテキスタイルの法人格が否認されないとしても,原告らに対する退職年金の拠出義務,これが果たせない場合に本来に戻った退職金支払義務を被告が重畳的に引き受けたものとみなされ,原告らに対し,原告らの残余期間に見合う年金原価率による退職一時金を支払う義務がある。
e年金基金破綻の責任
サンファインテキスタイルは,平成12年3月31日に解散,同年8月29日に清算を結了しているところ,その時点で同社が年金制度から抜け,被告はサンファインテキスタイルの従業員に対する退職年金支払義務も,拠出金の拠出義務も負わないという理解は,退職年金の共同委託制度の趣旨を無視するものである。
国税庁長官の承認を得て退職年金の委託を受けている大和銀行も原告らと同様の理解を示している(甲36,37)。
サンファインテキスタイルの取締役だったQも,被告が拠出金の拠出を続け,サンファインテキスタイルの退職者である原告らに対する退職年金の支払は続けられるものと理解していたし,同社の清算人となった公認会計士Rが貸借対照表に退職金支払義務を記載しなかったのも同様の前提に立ったものだと思われる。
そもそも,退職年金破綻の責任は被告にあった。
すなわち,昭和54年以来,被告は大規模な人員整理を進めてきたものであり,昭和54年4月に2435名在籍していた従業員を昭和55年11月には1558名に削減した(甲31)。
そのため,それまで一時金で支払ってきた退職年金が支払いきれなくなり,勤続20年以上の従業員に対する支払は全額年金とすることとせざるを得なくなった(甲33)。
被告はその後も人員削減を継続し,平成7年12月には504名にまで削減した(甲34)。その結果,共同の年金基金は枯渇してきた。
これに対し,サンファインテキスタイルは,昭和53年の分社当時から役員を除く従業員は16名程度であり,変化していない。
サンファインテキスタイルで退職年金を満額もらった者はS一人である。
平成13年8月になされた大和銀行の決算報告によると,責任準備金の総額は4億3802万3033円,被告の責任準備金は3億2274万3572円とされ,被告が拠出すれば年金財政の破綻は避けられたのに,平成13年1月以降拠出しておらず,大和銀行は同年3月から原告らへの年金支給を停止した。
被告はその後も更に大幅な人員削減を進め,退職者に対しては,所定の退職金額の80パーセント(加重平均)を特別加算金として枯渇した年金基金外から支払った。
特別加算金はともかくとして,原告らに対しても,退職年金の残余期間に見合う年金原価率による退職一時金を支払う義務が被告にはある。
イ被告の主張
(ア)法人格否認の法理について
a原告らは,株式の保有状況,サンファインテキスタイルは被告の編織部門が分社化されたもので就業場所,労働内容が変わらなかったこと,サンファインテキスタイルの代表取締役が被告代表者のKであること,歴代の取締役が被告及び被告関係会社から派遣された者がほとんどであったこと,人事,賃金の管理その他重要な意思決定は被告の管理部門で行われていたこと,退職金は一つの退職金規定・退職年金規約,大和銀行に対する共同委託により管理されていたこと,取締役会も持ち回り決議で行われていたことなどを列挙し,サンファインテキスタイルの法人格は否認され,原告らと被告との労働契約関係があったものとして取り扱われるべきであるとする。
bしかしながら,分社化により就業場所,労働内容が変わらなかったという点については,分社化自体企業活動における合目的的な選択としてなされた経済行為であり,就業場所,労働内容をどうするかということは分社化に際しなされた一つの選択にすぎず,法人格否認の理由とはなり得ない。
cまた,Kが平成3年以降サンファインテキスタイルの代表取締役であることは事実であるが(平成3年以前は代表取締役ではなく監査役),実際には経営担当者としてK以外の代表取締役がおり,その担当者が執行の責任者として会社の経営に当たっていたものであって,解散の意思決定,執行もその者が行ったものである。
dさらに,歴代の取締役が被告及び被告関係会社から派遣された者がほとんどであったとする点も,一般に企業グループが形成されている場合には,ごく普通にみられることであり,何ら異とするに足りない。
eなお,人事,賃金の管理について,実際にはそれぞれの企業で決定されて進められてきたのが実情であり,それらが被告の管理部門で行われていたというのは事実に反する。
まして,各社の経理は全く別個のもので税理士に相談をしてやっていたものであり,原告らの賃金を連邦政府で計算し,サンファインテキスタイルの従業員が連邦政府に賃金を受け取りにきていたとする点については,賃金の計算は乙2に基づいてサンファインテキスタイルより委託を受けて行っていたものであって,賃金を受け取りにきていた事実は全くなかった。
f退職金に関していえば,被告は共同委託者側の窓口の役割を果たしたにすぎず,運用管理はすべて大和銀行で行っていた。
g取締役会が持ち回り決議で行われていたことについては,それが会社債権者の保護される利益とどのように関係するのか疑問であり,また我が国の株式会社のうちで実際に取締役会を開催しているのは極めて少数にとどまるという公知の事実を前提にすると,この点を法人格否認の要素とするのは適当でない。
h以上のとおりであり,原告らが法人格否認の根拠として挙げるものは,ほとんどが事実に反するか,あるいは事実であったとしても根拠とはなり得ないものである。
しかも,原告らの主張は,判例が法人格否認の法理の適用を認める場合のうち,「法人格の濫用」であるのか,「法人格の形骸化」であるのか明らかでない。
そして,「法人格の濫用」の場合であれば同法理の適用要件として「支配」の要件と「濫用目的」の要件が必要であるとする「主観的濫用説」が通説,判例であるが,本件では「濫用目的」に関し原告らは全く主張立証していない。
また,「法人格の形骸化」の場合について,判例は「親会社が子会社を実質的かつ完全に支配しているだけでは十分でなく,会社に対し遵守すべきことを求めている重要部分が遵守されていないこと,例えば親会社と子会社間の財産の混同,取引,業務活動の混同の反復継続,明確な帳簿の記載ないし会計区分の欠如,株主総会,取締役会の不開催など必要な手続の無視など」がその要件として挙げられている(東京地裁平成4年2月7日判決・判例タイムズ782号65頁)。
これを本件についてみると,乙3から明らかなように,親会社と子会社間の財産の混同,取引,業務活動の混同の反復継続,明確な帳簿の記載ないし会計区分の欠如などの事実はあり得ない。
なお,サンファインテキスタイルは分社化以降解散清算に至るまで累積損失が解消したことはなく,1度も株式の配当をしておらず,被告としてはグループ内にサンファインテキスタイルを存続させたことにより,持ち出しこそあれ,その法人格を利用して不当な利益を得た事実は全くない。
(イ)重畳的債務引受けについて
a原告らは,被告を中心とする関係会社が同一の退職金規定,退職年金規約の下,退職年金の管理運用を大和銀行に共同委託していたこと,退職年金基金は一体として管理されていたことなどの法律関係にあっては,法人格が否認されないとしても,原告らに対する退職金支払債務を被告が重畳的に引き受けたものとみなされ,被告はサンファインテキスタイルと連帯して支払う義務があるとする。
そして,被告を含む関係会社は,自社従業員のみならず関係会社従業員で退職した者に対しても年金等の給付を行うことを目的として退職金規約を定めている,被告を含む関係会社は,退職者が自社従業員ではなかった期間をも通算して全額を拠出する義務がある,被告を含む関係会社が拠出した原資は区分して管理され支払われるのではなく,一体として管理され支払われるとし,以上の各定めは,退職従業員が退職時に所属した会社と共に,被告を含む関係会社が重畳的に自社以外の退職従業員に対する退職金・退職年金の支払債務を引き受けることを意味するとする。
bしかしながら,退職年金規約(甲15)13条1項ただし書きには,退職年金に関し,「関係会社に転籍し関係会社の退職年金制度の加入者となった者には支給しない。」とあり,同じく16条1項でも退職一時金に関し,同文のただし書きがあり,退職年金・退職一時金の支払は,関係会社それぞれの個別責任であることが明記されており,原告らの主張は失当である。
cまた,原告らが共同委託者(被告及び被告関係会社)が拠出金の支払に関し連帯責任を負う根拠として挙げている年金信託契約書(甲16)24条は,拠出金の延滞があった場合の対処を定めたものであり,共同委託者として甲,乙,丙又は丁と,延滞についても,対処についてもいずれも別個に扱っており,連帯責任の根拠たり得ない。
のみならず,同条2項では,延滞の上,年金規約を変更せず,拠出もしない共同委託者は,「当該年金規約に係る…拠出金の信託は行なわないものとし,直ちに当該年金規約に係る受益者に同規約に定める方法に従い給付を行なうものとします。
当該給付を行なつた後は当該給付に係る共同委託者は,この信託についての共同委託者の地位を失なうものとします。」としている。
この規定は「当該」とあることから,明らかに一部の共同委託者が延滞した場合を想定したものと解され,この点からも24条は連帯責任を定めたものではない。
かえって,本件のような場合,すなわち一部の共同委託者に拠出金の延滞が発生した場合は,上記24条2項に従って処理されるべきであったと解される。
(2)争点2(原告らが被告に請求し得る退職金の額は幾らか)についてア原告らの主張
原告らの経歴は,別紙「原告らの経歴及び退職金目録」に記載のとおりであり,原告らは,いずれも退職年金規約に基づき,退職年金の支給を受けていたところ,大和銀行による年金支払を停止されたものであり,同別紙の「退職金額」欄記載のとおり,退職年金の現価相当額の退職金請求権がある。
イ被告の主張
争う。

第3判断

1争点1(原告らは被告に対して退職金請求権を有するか)について(1)法人格否認の法理について
ア前記争いのない事実に証拠(証人Q,同T,原告F,甲20,21,23,24,25の1,2,26ないし28,39,乙1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア)被告は,昭和22年10月2日,林紡織株式会社の商号で設立され,昭和29年に林紡績株式会社に商号変更した。
被告は,昭和49年度以降,毎期損失を出していたことから,メインバンクである当時の東海銀行が,東海銀行出身で他の紡績会社を再建した実績のあるKに被告の再建を要請した。
その再建の方策の一つとして,各部門の債務を被告に集中させた上,身軽になった各部門をそれぞれ分社化するという方法が採られ,昭和53年3月1日,株式会社ハヤシボーセンイ(後のサンファインテキスタイル)が,同月13日,株式会社ハチマン(後のサンファインウール株式会社)が,同年4月1日,株式会社ハヤシボーセーセン(後の株式会社サンセンコー,株式会社サン・センコー)及び株式会社新紡毛(後の株式会社サン紡毛)が,同年5月1日,株式会社イーエス興業が,同年11月10日,株式会社ハヤシボー企業(後の株式会社サンライズ)が,昭和55年3月15日,株式会社中部ホケンセンターが,それぞれ設立された。
被告は,被告に関係した会社とサン・ファイングループを形成しており,平成4年9月当時の被告以外のサン・ファイングループ形成会社は,前記分社化された会社(当時の商号では,サンファインテキスタイル,株式会社ハチマン,株式会社サン・センコー,株式会社サン紡毛,株式会社イーエス興業,株式会社サンライズ,株式会社中部ホケンセンター)のほか,株式会社コーナン・カウンセリング・システムズ,株式会社サンファブリック,株式会社フソー技研,株式会社サンファイン化学であった。
サン・ファイングループは,対内的には被告を連邦政府,被告以外の各社を共和国と呼称しており,連邦政府には,総務部・工務部・秘書室,管理部・経理部,労務部・生活部・人材育成部があったが,被告以外の各社には,そのような呼称の部署はなかった。
(イ)サンファインテキスタイルは,設立当初は被告の100パーセント出資の子会社であり,被告(当時の商号は林紡績株式会社)の編織部門が分社化されたものであった。
被告の編織部門は被告の扶桑工場で操業されていたものであり,昭和53年の分社化の前後を通じて,従業員の就業場所(ただし,平成9年9月に扶桑から一宮に移転),就業内容その他労働実態は全く変わらなかった。
被告の代表取締役のKが平成3年からサンファインテキスタイルの代表取締役の一人を務めており,それ以前は,監査役を務めていた。
サンファインテキスタイルの歴代の取締役も,被告及び被告関係会社から派遣された者がほとんどであり,サンファインテキスタイルの取締役であったL及びMは,その後,株式会社サンファブリックの取締役も兼任した。
役員以外の従業員についても,例えばNはサンファインテキスタイルの準備工程の仕事をしていたが,被告の要請により被告に移籍した。
また,Oは,サンファインテキスタイルから,被告の要請により,被告関係会社の株式会社サンライズに移籍し,現在は被告の取締役に就任している。
サンファインテキスタイルの分社化に際しては,工場建物,機械設備をサンファインテキスタイルが被告から購入したが,その購入資金及び必要資金は被告がサンファインテキスタイルに貸し付けた。
平成9年9月,サンファインテキスタイルは,扶桑工場から一宮の株式会社サンセンコーの工場内に移転したが,被告は,扶桑工場の建物をサンファインテキスタイルから購入の上,移転費用も支出しており,サンファインテキスタイルはこれを借入金の返済に充てた。
(ウ)被告においては,前記分社化後も,借入金,金利の負担が財政を圧迫し,昭和53年11月30日の決算では106億円余の損失を出し,未処理損失230億円となった。
そこで,被告は,昭和54年2月7日,会社更生手続開始の申立てをし,同年4月5日,会社更生手続開始決定を受け,会社更生手続中の昭和56年3月10日,現商号に変更した。
そして,被告は,平成7年12月28日に債務を完済し,平成8年1月25日,会社更生手続は計画どおり終結した。
(エ)原告らは,いずれも昭和45年10月以前に,被告(当時の商号は林紡績株式会社)に採用され,昭和53年3月1日に被告の分社化により設立された株式会社ハヤシボーセンイ(後のサンファインテキスタイル)に転籍し,以後同社に10年以上勤続して退職したものである。
サン・ファイングループが作成した「わたし達のなかま」(甲20)には,サンファインテキスタイルの従業員の「入社月」は,サンファインテキスタイルが被告から分社する以前に被告に勤務していた者に関しては,被告に入社した年月が記載されていた。
(オ) サンファインテキスタイルにおいては,会社業務執行に関して,部長がその主管業務を執行するに当たり,それぞれの権限を越えるものについて,代表者の決裁を受けるべき場合の取扱基準及びその手続を定め,業務執行の円滑なる遂行を図ることを目的として,「申請規程」(甲24)が作成されており,同規程により申請された事項はすべて代表者が決裁するものとされ,サンファインテキスタイルの代表取締役であるとともに,サン・ファイングループの座長であるKと,サンファインテキスタイルの代表取締役の両名が各事項ごとに決裁権限を分掌し,重要事項については,Kの決裁事項とされていた。
(カ)サンファインテキスタイルの経理,決算については,被告とは明確に分離されており,従業員の賃金・賞与についても,各社がそれぞれの業績に基づき独自に決定していたものであって,その決定の際の労働組合との交渉においても,サンファインテキスタイルの場合は,サンファイン労働組合扶桑支部として,サンファインテキスタイルと独自に交渉していた。
そして,その具体的な計算については,税金,社会保険料等の複雑な計算があるため,コンピュータを備えていた被告との間で業務委託契約を締結し(乙2),委託料を支払って業務委託していた。
この点につき,甲23のQの陳述書には,サンファインテキスタイルの従業員の人事にかかわる給与・賞与額の決定・計算事務は,Kの決裁を経て,被告で行われていたとあるが,証人Qの証言
では,賃金の計算を委託していたもので,賃金自体を被告が管理していたのではないと前記陳述内容を改めている。
サンファインテキスタイルの取締役会は,時間的理由により持ち回り決議によることが多かったが,取締役会が全く開かれないということはなかった。
(キ) 適格退職年金制度の拠出金については,大和銀行から通知される拠出金額を被告及び被告関係会社が別々に拠出して,大和銀行にその管理を委託していたものであり,被告の人材育成部長Uが委託者代理人及び信託管理人として,大和銀行との窓口役を務めていたにすぎない。
(ク)サンファインテキスタイルは,設立当初は若干の黒字であったが,昭和55年から昭和59年までは赤字であり,昭和60年から平成4年ころまでは,昭和61,62年を中心に利益が出たものの,累積損失を埋めるには足りず,その後は大赤字で,1度も株式配当を行ったことはない状況にあった。
そして,業績の悪化した被告からの支援も得られないことから,Kのほか被告取締役の決裁も得た上で,その経営判断として解散,清算の道を選んだものであり,解散まで累積損失がなくなることはなかった。
イ 以上認定の事実によれば,被告がサンファインテキスタイルを分社化の形で設立したのは,被告を再建する方策の一つとして,各部門の債務を被告に集中させた上,身軽になった各部門をそれぞれ分社化するという方法を採ったものであり,商法に会社分割の規定が置かれた平成12年以降であれば,会社の新設分割の方法によることができたものというべきであって,サンファインテキスタイルの設立について,被告に法人格を濫用する目的があったものと認めることはできない。
また,前記認定事実に照らせば,被告とサンファインテキスタイルとの間には企業グループを形成するものとして密接な関係があったことは認められるものの,被告の再建のためにあえて分社化という方法が採られたものであり,サンファインテキスタイルの事業執行に関し,一定の重要な事項について,サン・ファイングループ座長としてのKあての決裁の申請がされていたものの,Kはサンファインテキスタイルの代表取締役でもあったから,サン・ファイングループ座長としてのKあての決裁の申請制度があったからといって,これにより,サンファインテキスタイルと被告が実質的に同一の法人格であったと認めるに足りるものではない。
なお,サンファインテキスタイルが決裁を申請した文書に,Kの決裁印のみならず,被告取締役の決裁印も押さ
れている事実があるが(甲25の2,26,27),前記認定のとおり,サンファインテキスタイルの申請規程では,同規程により申請された事項はすべて代表者が決裁するものとされており,被告取締役の決裁が必要とはされておらず,被告取締役の決裁印も押されていたという事実から,サンファインテキスタイルと被告が実質的に同一の法人格であったと認めるに足りるものではない。
そして,従業員の賃金・賞与の決定等は,サンファインテキスタイルが独自に行い,経理・決算も被告とは明確に分離されていたものであって,被告とサンファインテキスタイルとの間において,財産や取引・業務活動の混同があったとか,会計区分の欠如があったとか,あるいは,サンファインテキスタイルにおいて,株主総会や取締役会の開催など,会社として遵守
すべき重要な手続がとられていなかったなどの事実を認めるに足りる証拠はなく,サンファインテキスタイルの法人格が形骸化していたとまで認めることはできない。
ウ(ア)これに対し,原告らは,内部的一体性に関して,被告及び被告関係会社は,対内的には連邦政府,共和国などと呼称し,強固な一体性を持つ企業集団を形成していたものであり,連邦政府たる被告には,総務部・工務部・秘書室,管理部・経理部,労務部・生活部・人材育成部があるが,サンファインテキスタイルには,それらの部署はなく,サンファインテキスタイルは,被告本体と一体でなくしては,機能し得ない会社であった旨主張する。
しかし,会社の規模によって,独立の部署として存在する部の構成が異なることは当然であり,前記認定のとおり,サンファインテキスタイルが被告に委託料を支払って業務委託していた事務もあるのであって,サンファインテキスタイルが被告本体と一体でなければ独立の法人として機能し得ないような会
社であったと認めるに足りる証拠はない。
また,原告らは,サンファインテキスタイルの従業員の「入社月」について,サンファインテキスタイルが被告から分社設立される以前から被告に勤務していた者に関しては,被告に入社した年月が記載されていることも,内部的一体性を物語っている旨主張する。
しかし,甲20の「わたし達のなかま」は,サン・ファイングループとして作成したものであり,そこに記載の「入社月」がサン・ファイングループの企業に入社した月であるからといって,そのことから,サン・ファイングループを構成する各会社の法人格が否認されるような内部的一体関係にあったものと認めるに足りるものではない。
なお,前記争いのない事実にあるとおり,被告及び被告関係会社の従業員の退職金の算定においては,被告及び被告関係会社間で転籍した者は勤続年数を
通算することとされていたものである。
(イ)原告らは,資本関係に関して,サンファインテキスタイルは,被告の強い支配下にあった旨主張する。
しかし,親子会社のような資本関係にある会社であるとしても,そのことから当然に法人格が否認されるような一体関係にあるものと認められるものではなく,前記認定の被告とサンファインテキスタイルとの関係に照らせば,サンファインテキスタイルがその法人格を否認されるような支配を被告から受けていたものと認めることはできない。
(ウ)原告らは,業務に関して,サンファインテキスタイルが分社,設立された前後で原告らの就労場所その他労働内容は全く変わらず,食堂,社宅,寮などについても被告とサンファインテキスタイルとで分けられることもなく,双方の社員が同じものを使っている状態であり,各施設の修理等についても,サンファインテキスタイルが使用しているものに関しても被告が取り扱うことになっていた旨主張する。
しかし,それらのことは,被告とサンファインテキスタイルが密接な関連企業であったことを裏付けるにとどまり,被告を再建するため各部門ごとに別会社として分離,独立させ,以後被告とは別個独立の経営主体としたことと矛盾する事実ということはできず,その主張事実から,サンファインテキスタイルの法人格を否認するのが相当であると
認めるに足りるものではない。
また,原告らは,サンファインテキスタイルの経営に必要な工場,機械設備は,サンファインテキスタイルが被告から購入し,その代金は被告から貸し与えられるという方式がとられたものであり,被告による強い支配力が及ぶ関係であったものであって,サンファインテキスタイルの製造する製品の原料たる毛糸は,分社後も専ら被告から仕入れており,さらに,サンファインテキスタイルが扶桑工場から一宮の株式会社サンセンコーの工場内に移転したのも,サンファインテキスタイルの事情によるものではなく,被告が江南工場を移転し,紡績部門を扶桑工場に集約させた結果,押し出される形になったものである旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,サンファインテキスタイルは,一宮に移転するに際し,被告から,扶桑工場建物の売却代金及び
移転費用を受領し,これを自己の借入金の返済に充てているのであって,原告らの上記主張事実も,被告とサンファインテキスタイルが密接な関連企業であったことを裏付けるにとどまり,サンファインテキスタイルの法人格を否認するのが相当であると認めるに足りる事情ということはできない。
(エ)原告らは,役員・主要幹部等の兼任等に関して,被告の代表取締役であるKが,必要な人材を送り込む,あるいは引き揚げるということを最終的に決めていたのであり,正に被告がサンファインテキスタイルの人事については完全に支配していた旨主張する。
しかし,原告ら主張の役員・主要幹部等の兼任等の事実も,被告とサンファインテキスタイルが密接な関連企業であったことを裏付けるにとどまり,その主張事実から,サンファインテキスタイルの法人格を否認するのが相当であると認めるに足りるものではない。
(オ)原告らは,会社の意思決定における一体性に関して,人事・賃金の管理その他会社の重要な意思決定は被告の管理部門で行われており,その管理部門を被告は「連邦政府」と呼んでいたものであり,被告及び被告関係会社には,申請制度というものが存在し,物事はすべて被告への申請とその決裁で決められるから,サンファインテキスタイルにおいては,取締役会ですら持ち回り決議で行われ,実質的な討議はなく,株主総会でさえ,書類上だけのことであり,サンファインテキスタイルの解散という重要事項についてさえ,「申請書」により被告代表者及び役員が決裁をして最終的に可否を決した旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,被告が連邦政府と呼称され,被告代表取締役でもあるサン・ファイングループ座長としてのKあての申請・決裁
制度があったことは認められるが,Kは,サンファインテキスタイルの代表取締役でもあったのであり,サンファインテキスタイルの申請規程(甲24)では,すべて代表者が決裁するとされていたのであるから,原告ら主張の申請・決裁制度の存在により,サンファインテキスタイルの意思決定がすべて被告によりされていたものと認めることはできない。
また,持ち回りであってもサンファインテキスタイルとしての取締役会決議がされていたことは前記認定のとおりであり,株主総会が適法に開催されていなかったものと認めるに足りる証拠はない。
(カ)原告らは,就業規則及び退職年金制度に関して,被告及び被告関係会社は同一の退職金規定・退職年金規約を持ち,大和銀行に対する共同委託により退職年金を管理していたものであり,就業規則もわずかな違いを除いて同文であった旨主張する。
しかし,被告及び被告関係会社が共同委託により退職年金を管理していた経緯は,後記認定のとおりであり,これにより,被告と被告関係会社の法人格を同一視するに足りる事情ということはできず,また,被告及び被告関係会社の就業規則がほぼ同文であるという事実も,被告と被告関係会社の法人格を同一視するに足りる事情ということはできない。
エ以上によれば,法人格否認の法理の適用により,被告には原告らに対する退職金支払義務があるとする原告らの主張は採用することができない。
(2)重畳的債務引受けについて
ア前記争いのない事実に証拠(甲15,16,乙1,証人T)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア)被告(当時の商号は林紡績株式会社)及び被告関係会社(当時の商号は,林化成株式会社,林レイヨン紡績株式会社,林編織株式会社)は,退職金規定に基づく退職金の支払を確実にし,かつ法人税法上の優遇措置を受けるため,昭和43年に適格退職年金制度を設け,退職年金規約を定めた。
退職年金給付の財源に充てるための費用は全額被告及び被告関係会社が拠出すること,被告及び被告関係会社は,加入者の加入の月から退職等の月まで,年金数理に基づいて算定された一定額を毎月拠出することとされており,加入者の退職前に必要な財源を全額積み立てておくことになっていた。
(イ)被告及び前記被告関係会社は,昭和43年12月31日,大和銀行及び中央信託銀行株式会社との間で,年金信託契約を締結し(甲16),被告及び被告関係会社が拠出した共同の年金基金の管理,運用及び退職年金の給付事務を共同委託し,被告及び被告関係会社の従業員全員の年金基金を共同で管理・運用し,退職金給付を支給していた。
その後,受託者は大和銀行のみとなり,共同委託者は被告及び被告関係会社(株式会社サンセンコー,株式会社イーエス興業,株式会社サンファブリック,サンファインテキスタイル,株式会社サン紡毛)の6社となった。
(ウ)被告及び被告関係会社(当時の商号は,林化成株式会社,林レイヨン紡績株式会社,林編織株式会社)が締結した年金信託契約書(甲16)は,その24条1項において,「共同委託者が…定められた期日までに甲(被告。
当時の商号は林紡績株式会社)の第1拠出金(通常の拠出金),乙(林化成株式会社)の第1拠出金,丙(林レイヨン紡績株式会社)の第1拠出金もしくは丁(林編織株式会社)の第1拠出金(…)または,甲の第2拠出金(過去勤務債務等の拠出金),乙の第2拠出金,丙の第2拠出金もしくは丁の第2拠出金(…)の信託を行なわなかつた場合には,共同委託者は,当該拠出を行なうべき期日の翌日から2か月以内(…)に,当該拠出金および当該拠出金の延滞期間に応じ,当該拠出金の算定の基礎となつた予定利率を乗じて計
算した額(…)を共同受託者に信託するものとします。」と,同条2項において,「前項に定める猶予期間内に甲,乙,丙または丁の第1拠出金およびその延滞利息の信託を行なわなかつた場合には,共同委託者は,甲,乙,丙または丁の年金規約を変更するものとし,変更しない場合には,以後当該年金規約に係る第1拠出金および第2拠出金の信託は行なわないものとし,直ちに当該年金規約に係る受益者に同規約に定める方法に従い給付を行なうものとします。
当該給付を行なつた後は当該給付に係る共同委託者は,この信託についての共同委託者の地位を失なうものとします。」と規定している。
(エ)被告及び被告関係会社(株式会社サンセンコー,株式会社イーエス興業,株式会社サンファブリック,サンファインテキスタイル,株式会社サン紡毛)の共通の退職年金規約(甲15)13条1項ただし書きには,退職年金に関し,「関係会社に転籍し関係会社の退職年金制度の加入者となった者には支給しない。」とあり,同じく16条1項でも,退職一時金に関し,同文のただし書きがある。
(オ)サンファインテキスタイルは,平成12年3月31日に解散し,同年8月29日に清算を結了したが,その清算に際し退職年金会計の清算は行われなかった。
また,株式会社サン紡毛も解散,清算結了し,株式会社サンファブリックも解散して,清算手続中であり,株式会社サン・センコーは破産手続中であり,いずれも年金信託契約に基づく拠出金の負担ができない状況にあったが,退職適格年金からの脱退の手続をとっていなかった。
そして,被告と株式会社イーエス興業のみが拠出金の負担をしていたが,その拠出金が同2社以外の退職年金受給者への支払にも充てられた結果,年金原資はほとんど底をつくようになり,被告において,そのまま拠出金を負担し続け,被告以外の会社の退職者に年金の支払を継続することは背任行為に当たるとの指摘が監査法人からあったことから,被告は,大和銀行に年金信託契約の解除を申し出,平成13年1月以降の拠出金の負担を停止した。
そのため,大和銀行は,原告らに対し,共同委託者の事情により,年金受給者の皆様に対する年金支払の原資が大幅に不足する事態になったとして,年金支払を停止する旨通知し,平成13年3月から年金支給を停止した。
イ以上認定の事実によれば,甲15の退職年金規約の13条1項ただし書き及び16条1項は,退職年金・退職一時金の支払については,被告及び被告関係会社が,自社に籍を置く者に対して,それぞれ個別に責任を負うものであることを表しているということができる。
そして,甲16の年金信託契約書の24条1項は,拠出金の延滞があった場合の対処を定めているが,延滞についても,その対処についても,いずれも共同委託者について,「甲,乙,丙又は丁」と表記して,別個に扱っており,また,同条2項は,延滞の上,年金規約を変更せず,拠出もしない共同委託者について,「当該年金規約に係る…拠出金の信託は行なわないものとし,直ちに当該年金規約に係る受益者に同規約に定める方法に従い給付を行なうものとします。当該給付を行な
つた後は当該給付に係る共同委託者は,この信託についての共同委託者の地位を失なうものとします。」と規定しているのであって,「当該」とあることから明らかなように,一部の共同委託者が,拠出金を延滞し,年金規約の変更もしない場合には,その委託者の年金規約に係る受益者に同規約に定める方法に従い給付を行い,その給付を行った後はその給付に係る委託者は,同信託契約における共同委託者の地位を失うものとされているものと解される。
そうすると,甲16の年金信託契約書は,被告及び被告関係会社の相互間において,拠出金の負担について連帯責任を負っていることの根拠になるものではなく,甲36,37,41及び調査嘱託の結果も,その連帯責任を裏付けるに足りるものではない。
したがって,甲15の退職年金規約と甲16の年金信託契約書を併せても,被告及び被告関係会社が相互に自社以外の従業員の退職金の支払義務を重畳的に引き受けたことの根拠となるということはできず,他に,これら連帯責任あるいは重畳的債務引受けの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
ウこれに対し,原告らは,1退職年金規約において,拠出された原資は,被告及び被告関係会社の共同の年金基金として,その管理,運用及び給付事務が大和銀行に委託されるものとされ,年金信託契約においても,共同委託に係る受益者は被告及び被告関係会社の受給権者全員であり,受託者の大和銀行は共同の年金基金から受益者全員に支払うことが定められていること,2被告及び被告関係会社の各社において退職者が出る比率は時期により一定ではないから,一体管理された年金基金からの退職年金の支払,すなわち共同の年金基金を費消する比率にもアンバランスを生じ得るものであり,現実に大きなアンバランスがあったこと,3被告及び被告関係会社の従業員全員の年金基金は一体として管理されるから,被告及び被告関係会社中のいずれかが
拠出を怠った場合,怠っていない他の会社も含め全体としての年金基金の健全性が失われるので,共同委託者である被告及び被告関係会社が拠出について連帯責任を負うことは,共同委託・一体管理型の年金制度上当然のことであって,共同委託者が拠出金の拠出を怠った場合は,他の共同委託者が当該拠出金及び延滞利息を支払うこととされているものであり,被告及び被告関係会社間で退職年金の支払にアンバランスが生じても不公平にならないのは,拠出金及び延滞利息の支払の連帯責任により,最終的には被告及び被告関係会社の従業員全員の退職年金の支払が担保されることになっているからであること,4退職年金規約は退職金規定と一体となって就業規則の一部をなし,労働契約の内容となるものであり,年金信託契約は労働契約の内容たる退職
金支払義務を対価関係とする第三者のためにする契約であることから,共同委託者の年金基金拠出の連帯責任は,対大和銀行だけでなく,共同委託者の全従業員,すなわち原告らに対しても直接負うものであること,5年金基金破綻の責任は被告にあること,を根拠として,原告らに対する退職年金の拠出義務,これが果たせない場合に本来に戻った退職金支払義務を被告が重畳的に引き受けたものとみなされる旨主張する。
被告及び被告関係会社の従業員全員の年金基金が一体として管理される以上,被告及び被告関係会社中のいずれかが拠出を怠った場合,怠っていない他の会社も含め全体としての年金基金の健全性が失われることは,原告ら主張のとおりである。
しかし,前記認定のとおり,甲16の年金信託契約書の24条2項は,一部の共同委託者が,拠出金を延滞し,年金規約の変更もしない場合には,その委託者の年金規約に係る受益者に同規約に定める方法に従い給付を行い,その給付を行った後はその給付に係る委託者は,同信託契約における共同委託者の地位を失うものとしているものと解されるのであって,その方法によって年金基金の健全性を維持しようとしているものと認めるのが相当である。
したがって,年金基金の健全性を維持するために共同委託者
である被告及び被告関係会社が拠出について連帯責任を負うことが,共同委託・一体管理型の年金制度上当然のことであるとする原告らの主張はたやすく採用することができない。
また,被告及び被告関係会社の各社において退職者が出る比率は時期により一定ではないから,一体管理された年金基金からの退職年金の支払,すなわち共同の年金基金を費消する比率にアンバランスを生じることは,原告ら主張のとおりと認めることができる。
しかし,そのようなアンバランスが生じて不公平になるからといって,これを回避するためにあらかじめ拠出金及び延滞利息の支払の連帯責任が約定されたものと認めるに足りる証拠はない。
原告らに対する退職金支払義務について被告が重畳的債務引受けをしたとする原告らの主張は,拠出金及び延滞利息の支払についての被告の連帯責任を前提とするものであり,その前提事実が認められない以上,原告らの主張は採用することができない。
エ以上によれば,重畳的債務引受けにより,被告には原告らに対する退職金支払義務があるとする原告らの主張は採用することができない。
2争点1についての判断が,前記1で説示したものである以上,争点2(原告らが被告に請求し得る退職金の額は幾らか)については,判断の要がない。

第4結論

以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

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